おはようございます。
AWT48という概念が心臓を破壊していきましたが私は元気です。
もちろんこの記事は刀剣乱舞に関する話ではないです。
さておき。
今自分は基数のべきについての話を書いているのですが、その1で
「無限基数の和と積はでめっちゃ簡単!」
と書きました。
確かにべきの値が全く分からないことに比べれば簡単なのですが、演算の性質についてはそうでもないです。
ざっくり言うとこれは無限に関する計算を考えているので冒頭に挙げたようなことが普通に起こるのですが、それを確認するのはそんなに簡単でもないです。
なので和と積の定義をして諸々の性質を考えていきたいと思います。
注意なのですが、この話は全てZFC上の話です。
また、ここではや、これに添え字付けたものはすべて基数を表すことにします。
基数の定義とかは、
に書いてあります。
定義
基数の和は直和の濃度、積は直積の濃度として定義されます。また、有限の場合を考えればちょうど拡張になっていることがわかります。
例)
無限項の演算についても、
として定義されます。は添え字集合です。なんか定義が循環して見えるので注意を書くと右側のは直積の意味です。記号の意味としては別物です。
和や積の演算について調べるには直積や直和の濃度を調べれば良いことがわかります。
これを考えるのに濃度の話を思い出します。
濃度の定義より、2つの集合の濃度が等しいとはそれらの間に全単射が存在することを言います。
2つの集合間に全単射が存在することを2つの集合は対等であると表現し、が対等であることをで書きます。
選択公理があるので任意の集合は整列可能です。
そして整列集合は順序数との間に全単射(順序同型写像)を持つのでは濃度を持ちます。
は順序数なのでどちらか一方への順序構造の埋め込み写像が存在します。これは単射になるのであるいはということになります。
で、両方言える時、すなわちかつなるときBernsteinの定理よりが言えます。
また、なるとき等号が言えないので全単射は存在しません。よって任意の単射は全射でないです。もっと言うと全射が存在しません。
逆に、全射が存在しないならが言えます。
で、何が言いたかったかというと基数の演算はある集合の濃度で定義されていたので、基数の演算を調べるには「いい感じの写像を作る」というのが常套手段になります。
なので写像を使っていくつかの例を示していきます。
定理1
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
が成立する。つまり基数の和と積はそれぞれ結合律と可換律、分配律を満足しそれぞれ単位元が存在する。
証明
1) を
として定義する。これは明らかに全単射だからである。
2)~4)もほぼ同じ。5)は集合演算の分配律を考えればよいです。6)はであるから良い。7)も1元集合との直積は元の集合と明らかに対等なので良いです。□
また、次が言えます。
定理2
1)なら
2)なら
証明
1)を単射として上の恒等写像との積で得られる写像は明らかに単射。
2)の時はあきらかなのでそうでないとする。
をとすればこれまた明らかに単射である。□
わりと「それはそう」感が強いのでそれほど自明でない例を考えます:
定理3
任意の無限基数に対しが成立する。
証明
次の主張から直接得られます:
主張
任意の無限順序数に対しが成立する。
主張の証明
であるときはなる全単射が存在することは良く知られているのでなケースを考えます。
「でない」無限順序数が存在したとします。
「」内の性質を(*)と置いておきます。
をそのような順序数で最小のものとする。
このときは基数となる。もしそうでないとするとなる順序数が存在する。
は(*)を満足する最小の順序数であるからである。
しかし、であり矛盾。
よって、は基数である。
次になる順序数を考えます。ここに,は2つのから出来る辞書式順序。
事実として認めてしまうのですが、このは一意に存在します。(ここでは話しませんが、順序数の演算というのも定義されていてこのが一意に存在することから順序数の積を定義したりします。)
また、このについて、より。
これより、はの始切片なのでの始切片と同型になる。すなわち次を満足するが存在する:
...(1)
ここで,なる順序数を考えます。このは順序数の後続を取るという意味で基数の演算ではないです。
順序数は小さい方が大きい方の始切片となるからはあるいはとなる。または無限基数でありすなわち極限順序数。
極限順序数は後続を取る操作で閉じているからであり、かつ
(1)より、なる埋め込みが存在するが、の最小性より。
これより、なる単射が存在する。
また、よりなる単射も存在してBernsteinの定理より。
しかし、は基数であるから自分より小さい順序数との全単射は存在しないはずだから矛盾。
これより、(*)を満足する無限順序数は存在しない□
よって主張が示せた。
これより、任意の無限基数に対しだからである。□
系4
無限基数に対し
証明
としても一般性を失わない。
定理2,3より
よってが得られた。□
これらより、有限項の無限基数の和、積のみからなる演算は計算すると現れる項のなかで最大の無限基数になることがわかります。
べきはとても難しい(とても難しい)のでここでは考えなくて、とりあえず次回があれば無限項の演算を考えたいと思います。