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オタク思想とオタク地獄とラブコメと萌え4コマ漫画

基数のべきを調べたいという話 その1

せっかくtexを使えることが判明したので数学の話を書きます。

 

めっちゃ長くなっちゃったので分割して投稿しよう。

 

(追記)ZFCの無矛盾性は仮定します

 

(追記2,2016/10/26)各定義をまとめました

順序数と基数の話 - 尊みで飯が食える

 

特異基数問題と呼ばれるものの話がしたいです。

 

特異基数問題について話すためにまずはCardinal Arithmeticの話をします。

 

Cardinal Arithmeticはその名の通り基数の演算について調べる分野です。

 

基数ってなんじゃらぽんというと集合の濃度を表す数です。{ \aleph_{0}}とか{\aleph_{1}}とかのアレです。

 

ちゃんと言うと濃度が自身と一致する順序数を基数と言います。表記として{\alpha}番目の無限基数が{\aleph_{\alpha}}です。

 

で、無限基数の演算を考えることができます。有限基数の場合は普通の足し算掛け算と同じです。

 

無限基数の演算には和、積、べきがありますが和と積はめっちゃ簡単。

 

なんでかというと{\kappa+\lambda=\kappa\cdot\lambda=max\{\kappa,\lambda\}}だからです。わかりやすい!

 

なのでべきを調べるのが主な目的です。これはめっちゃ難しい。

 

最初に基数 { \kappa }のべき{ 2^{\kappa} }ってなんじゃらぽんというとべき集合 { \cal{P}(\kappa) }の濃度です。

 

もっと一般に {\lambda^{\kappa}} {\{f|f:\kappa\to\lambda\}}の濃度として定義されます。

 

{ 2 }は2元集合なので {\{f|f:\kappa\to 2\}}は特性関数全体と対等でこの定義はべき集合の濃度で定義するやつの一般化です。

 

なんでこれが難しいかというと、めっちゃ知られている事実として連続体仮説{ 2^{\aleph_{0}}=\aleph_{1} }はZFC上独立です。 

 

もっと言うと{ 2^{\aleph_{0}}=\aleph_{1}}と仮定しようが{2^{\aleph_{0}}=\aleph_{2016}}と仮定しようがZFCとは矛盾しません。

 

かなーり好きに仮定してよいのです。

 

私は三者三葉が大好きなので語呂合わせて34834番目の無限基数を連続体濃度に、つまり{2^{\aleph_{0}}=\aleph_{34834}}を仮定しても無事数学は展開できます。実数が三者三葉個あって幸せですね。ちなみに{2^{\aleph_{0}}}は実数全体の集合{\mathbb{R}}の濃度なので連続体濃度と言います。 

 

実数の濃度がヘンテコなことになってて困る!つらい!連続体仮説最高!ということは自分は全然聞いたことないけど積分の話でちょっと変なことが起きることがあるとかどっかで聞いたかも。

 

それなら私は{\omega}が好きだ!というあなたは残念ながら{2^{\aleph_{0}}=\aleph_{\omega}}を仮定することができません。{ 2^{\aleph_{0}}\not=\aleph_{\omega}}がZFCから証明できるので矛盾してしまうのです(K\"onigの定理)。

 

こんな感じにダメなパターンも当然のようにありまして、ダメだと言われた人の「ならどこまで好き勝手やっていいんだ!」という怒りはもっともです。これについて調べたいです。

 

個人の感情はさておいて実際「どれくらい自由にべきの濃度を仮定していいのか」というのは当然の疑問です。

 

言い換えると「基数のべきに関してどれくらいの事実がZFCから証明できるか?」です。

 

で、正則基数のべきに対しては2つしか制約がないことをEastonが示しています。

 

(Easton)正則基数全体のクラスをReg、無限基数全体のクラスをICNとして{ F:Reg\to ICN}なるクラス関数が次の2条件を満足するとき,{\forall \kappa \in Reg (2^{\kappa}=F(\kappa))}はZFCと矛盾しない。

{\begin{cases}cf(F(\kappa)) \gt \kappa \\ \kappa \lt \lambda \to F(\kappa)\leq F(\lambda)\end{cases}}

 

1つ目の条件がK\"onigの定理です。 

 

この2つに反さなければ好き勝手設定していいわけですね。連続体濃度が三者三葉数番目のアレフになることは問題ないのでオッケーです。

 

ので、特異基数も好き勝手したい!というのが願望なのですがそうではないことが知られてて例えばSilverの定理があります。

 

(Silver)非可算共終数を持つ特異基数{\kappa}に対し{ \forall \alpha \lt \kappa (2^{\alpha}=\alpha^{+})}ならば{2^{\kappa}=\kappa^{+}}が成立する。

 

つまり非可算共終数を持つ特異基数は連続体仮説が破れない最初の基数にはなりえないのです。

 

Silverの定理は集合論の歴史の中では結構古い結果なのですが可算共終数を持つ特異基数について同じことが言えるか~というのは結構な時間未解決で解決は割と新しいです。といっても1980年代らしいけど。

 

さておいて、この結果を見る限り特異基数のべきの値は正則基数のべきの値に影響を受ける場合があるので正則基数よりは簡単にいかないぞーってなってしまいました。

 

この特異基数のべきについて何が言えるだろうか、というのが特異基数問題です。

 

そしてこの特異基数のべきを調べるにはどうしたらいいんだ...という話になるのですがそれは次回に書きます。